「ITゼネコン」とはどのような意味でしょう。IT業界に所属したことがある方は一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
当記事では、ITゼネコンの詳細や誕生した背景、問題点、末路について解説します。
この記事を読めば、ITゼネコンはどこで生じているのか、なぜ起きているのかを理解することが可能です。
IT業界に入社を考えている方や、ITゼネコンとはどういう意味か、ITゼネコンの末路はどのようであるかについて気になる方は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。
そもそもITゼネコンとは?
ITゼネコンってどういう意味?
まずゼネコンとは、「General Contractor」の略称で、建設業界で使われている言葉です。
ゼネコンは土木・建築の業界における元請負者として、工事を一括で発注者から直接請負い、工事全体をとりまとめる建設業者のことを指します。
ここからは、ITゼネコンの詳細や、ITゼネコンが誕生した背景について紹介しましょう。
ITゼネコンとは
「ITゼネコン」とは、システム開発における元請負企業、もしくは多重下請構造を指します。
ゼネコン業界と同じように、IT業界のなかでもSIer業界では、元請けや下請け、孫請けなどのように多重下請け構造を形成しています。
クライアントから直接システム開発の依頼を受ける大手SIer企業と、ピラミッド状に多数の下請けや孫請けといわれる企業があります。
多重下請け構造を「SIピラミッド」といわれる場合もあり、この構造がさまざまな問題点を生み出している現状があります。
下記の表をご覧ください。大手SIer企業に属している企業の代表例は、NTTデータ・富士通・日鉄ソリューションズ・SCSK・TIS・伊藤忠テクノソリューションズ・電通国際情報サービスなどです。
SIer業界については下記のサイトを参照してください。
ITゼネコン誕生の背景
官公庁や、メガバンクなどの大手金融会社がシステム開発を発注する場合、大規模なシステム開発のプロジェクト案件になる場合が多いでしょう。
本来はシステム開発をおこなう場合、自社の中で大規模な情報システム部を抱え、システム開発や運用をおこなわければならないところを、SIer企業に全て委託しています。
理由は、自社内に社内SEといわれるシステムエンジニアを多く雇うことができないためです。
たとえば、社内システムの開発や運用する機会が減少すると自社にいるSEの必要性が下がります。そのため、人件費が大きくなってしまうという問題が発生します。
したがって、社内システムを開発や運用する場合となるとSIer企業に外注するという構造が生まれます。
中小企業が大規模なシステム開発案件を受注した場合、システム開発を失敗すると、クライアントから損害賠償請求を要求されることもあるでしょう。よって、中小企業の場合リスクを担保することができないという「資金」の問題も挙げられます。
したがって、大手のSIer企業(例.NTTデータや富士通など)が元請けとなり、プロジェクトを取りまとめる役割を担うことで、資金的なリスクを背負うことのできない中小企業の受け皿になることができるというメリットがあります。
ITゼネコンの3つの問題点
ITゼネコンによるデメリットはあるの?
これまでにITゼネコンの詳細や誕生した背景の紹介をおこないました。ここからは、ITゼネコンによって引き起こされる問題点について3つ紹介しましょう。
給与格差の問題
大手SIer企業(例.NTTデータや富士通)が、中小企業や零細企業にシステム開発案件の一部を委託する場合、自社の利益を抜いた値の額で発注をおこないます。
つまり、上流企業の方が下流企業よりも利益率が高くなるように発注をおこなっています。そのため、利益率に差が生じ、上流企業と下流企業との間に給与格差が生まれます。
たとえば、一つプロジェクト案件では一次請け企業の収益と、孫請け企業の収益には大きな格差が生まれています。
孫請け企業の場合、非常に低い利益率で仕事を受注しています。そのため、みなし残業制度など一定までしか残業代が出ないなどブラック企業といわれる側面もよくみられます。
労働環境の問題
SIer企業がクライアントとプロジェクトの契約をおこなうと、納品日が決まります。
納期があることがSIer業界の労働環境が過酷といわれる原因の一つです。
理由としては、システム開発におけるプロジェクトがスケジュール通りに進む場合はほとんどありません。システムには不具合やトラブルがつきものであるためです。
そのため納品日に間に合わない場合は、残業や休日出勤など過重労働を強いられることもよくあるでしょう。
他にも納品日に間に合わない理由は多数挙げられます。ここでは2点紹介しましょう。
理由1.クライアントの要求がプロジェクトの進行中に変わる
プロジェクトの進行中にクライアントからの要件が変わることはよくあります。
たとえば、インフラシステム開発のプロジェクトを受注したとしましょう。プロジェクトが順調に進み、システムの開発が終わった後に、クライアントからオンプレミス型からクラウド型のシステムにして欲しいと要求されることもあります。
そのため、納品日に間に合わないだけではなく、最初から要件定義や設計をやり直す場合も少なくありません。
私の携わったプロジェクト案件で実際にあった事例です!
オンプレミス型→クラウド型→オンプレミス型のように要件がコロコロと変わり、最終的にはオンプレミス型でシステムを開発することになりました!
理由2.大手SIer企業の社員がスキル不足
大手SIer企業(例.NTTデータや富士通)が設計した内容をもとに中小企業や零細企業はプログラミングやテストをおこなうことが多いでしょう。
たとえば、大手SIer企業の社員でシステム開発の設計のスキルがない場合、中小企業や零細企業は思うようにプログラミングができない場合もよくあります。
何度も工程の手戻りがおこなわれたり、無駄な問い合わせをおこなったりすることが増え、納期に間に合わないという事態が発生することも多いでしょう。
人材育成の問題
ITゼネコンでは、各層で求められる知識やスキルが偏ってしまうため、人材を育成するという観点から問題が生じます。
たとえば、プロジェクト管理のみ担当するSEや、要件定義やプログラミングの設計はできないけれど、プログラミングのみできるSEなど、偏ったスキルをもつ人材が生まれやすいという問題点が挙げられます。
一方、さまざまなシステム開発に関する知識やスキルを身に付けているエンジニアはスタートアップ企業やベンチャー企業などから重宝される人材になることができるでしょう。
ここではITゼネコンの各層に分けて紹介しましょう。
一次請け企業
一次請け企業の場合、プロジェクトをマネジメントすることが主な業務になることが多いでしょう。よって、品質やコスト、スケジュールなどを管理する場合が多いです。
さらに、システム開発の最初の段階である要件定義工程や設計工程でさえも二次請け企業に完全委託してしまう場合もあります。
そのため、システム開発に関する知識やスキルは全く必要ないことから、管理するスキルは身に付けることはできても、ITに関する技術が身に付かない場合も多いでしょう。
二次請け企業
二次請け企業の場合、要件定義や基本的な設計する機会は、一次請け企業と比較すると少ないでしょう。
そのため、プログラミングの詳細設計のみ担当し、孫請け企業に実際におこなうプログラミングやテストを委託することが多いです。よって実際の開発に関するスキルは身に付かないこ場合も少なくありません。
一方、プログラミングの詳細設計をおこなう場合は、実際にプログラミングをおこなった経験がないと設計が上手くできないことも多いです。
そのため、若い時期にプログラミング経験の下積みをしてからプログラミングの詳細設計を担当する場合も少なくないでしょう。
孫請け企業
孫請け企業の場合は、プログラムの詳細設計まで完了している段階で委託される場合がほとんどです。
そのため、設計書通りにプログラミングをおこなうだけになるため、プログラミングに関するスキルは身に付けられたとしても、システム開発の設計理由に関しては知ることができません。
したがって、要件定義や設計などの、システム開発における重要な上流工程に関するスキルを身に付けることができません。
ITゼネコンの末路・今後の展望
これまでに、ITゼネコンの誕生した背景や問題点について紹介しました。
ITゼネコンとは、システム開発における元請負企業のこと、もしくは多重下請構造のことを指します。
「SIピラミッド」ともよばれる多重下請け構造から生まれる「給与格差」「労働環境」「人材育成」の問題は、今後改善されるべき課題といえるでしょう。
官公庁は時間やコストがかかるという観点から、大手SIer企業への発注を止めようとしたこともありました。しかし、日本のITゼネコンの構造を変えることはなかなか難しい現実があるようです。
この仕組みは、アメリカなどでは、あまり見られません。
まずは、ITゼネコンが社会的問題である認識を社会全体がもつことが、ITゼネコンの問題点を解決するための一歩となるかもしれません。
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